2011.10.25
税務当局は支払調書制度を整えてきています。平成21年からFX会社には、投資家のFX損益の支払調書の税務署への提出を義務付けられました。同年4月には国外送金にかかる支払調書の提出基準を200万円から100万円に引き下げました。そして、平成24年から金等の取扱業者には「金地金等の譲渡の対価の支払調書」の提出が義務づけられます。この金地金の支払調書は、譲渡対価が200万円を超える場合に提出されます。
ちなみに「犯罪収益移転防止法」により本人確認等が必要となるのは、200万円超の現金を取り扱う場合であり、金等の取扱業者もこの法律の下業務にあたります。このたびの支払調書の200万円という基準は、取扱業者の現場の事務負担を考えて一致させたものと推測されます。
最近の金(Gold)価格の最高値は、1g約4,700円前後です。この金額によれば200万円は約425gといったところです。田中貴金属の価格推移データによると、ここ最近の最安値は1999年の1g917円ですから、200万円−917円×425g=1,610,275円、ここから特別控除50万円をマイナスしますと約111万円、所有期間5年超の長期譲渡所得金額は2分の1を乗じて計算できますので譲渡所得金額は約56万円となります。つまり譲渡対価が200万円以下ならば、本年の場合において金の譲渡による所得金額は理論的に56万円以下におさまります。
(ただし、金等の取得費用が不明な場合には、売却金額の5%が取得費となりますので、上の例は参考になりません。)
ところで、扶養控除、配偶者控除の適用を受けるためには、合計所得金額が38万円以下である必要があります。つまり、金等を売却したために合計所得金額が38万円を超えてしまうと扶養控除等の適用を受けることができないのです。上の例の38万円超56万円以下の金地金の譲渡所得を得た者は、税務署の所得捕捉を免れることができなかった場合には、より高所得者であるその者のパートナー等への課税が重くなりますので注意したいところです。
とは言っても、38万円超56万円以下の金地金の譲渡所得金額の範囲内におさまる金地金の譲渡者は極少数です。結果として税務当局はこの200万という基準により、この金地金を譲渡した者を扶養するパートナー等を含めて課税漏れをほとんどカバーすることができて効率的なのです。「200万円という基準が甘い」とのたまう税務署寄り(?)の同業者がいますが、昨年の税制改正大綱の段階(200万円という素案の段階)では、金価格は本年より安値でしたので、なおさら譲渡所得金額は56万円以下の金額に収束されます。分析不足もいいところです。